前世紀末に流行したアルミ無水鍋。省エネ(今ならSDGs適格の一部)でおいしい料理ができるので重宝だったのですが、お手入れが大変でした。

 下の写真が今回再生するアルミ無水鍋です。ご覧のようにひどい汚れ方です。これはアルミ合金製品ですが、アルミは熱の伝わりが良く、高温(300℃程度)の調理も可能なので無水調理には重宝なのですが、汚れやすくお手入れが大変という欠点がありました。この鍋のサイズは直径28㎝深さ10㎝、蓋は深さ5㎝あります。チキンが丸ごと一羽入る上に、さらに野菜も詰め込めるビッグサイズです。蓋はフライパンにもなります。重さは2㎏です。確か数万円もした記憶があります。汚れがひどいのであまり使わなくなってしまいました。

無水鍋は止む無くアルミ製にしなければならない理由がありました。

 汚れがひどいならば、フッ素樹脂コートすればという話になりますが、テフロンのようなフッ素樹脂は250℃が限界で、300℃が必要な焼き物といった高温調理ができなくなってしまいます。また、最近指摘されているようにフッ素樹脂は廃棄時の環境負荷が大きいため、SDGsを目指す社会にとってはあまり好ましくありません。また、一般鍋のアルマイトは、耐熱温度は高々150℃程度で、炒め物すらできなくて煮物専用になってしまいます。これでは、無水鍋の特長である万能性がわからなくなってしまいます。

 ホーロー引きやセラミックコーティングならば耐熱性はよいのですが、急熱急冷といった耐熱衝撃性に弱いため、サイズが大きいものはあまり高温調理に適しません。よく耳にする高温にしなくても火が通るというのは技術不足の詭弁で、高温にも低温にも対応できるのが調理器具の本筋だと思われます。

 無水鍋が無垢のアルミ合金なのは、このように適当なコーティングが難しいためですが、ステンレスならばどうでしょうか?ステンレスだとコーティングがなくてもお手入れは楽になるのですが、問題は重いこと。比重がアルミの3倍もあるため、今回のアルミ無水鍋と同じサイズならば6㎏にもなります。食材を入れると10㎏にもなりそうです。さすがにこれはきついと思います。

 結局現状お店で多く見かける無水鍋は、鉄にホーロー引きしたものかステンレスになりますが、このアルミ製よりももっと小さいサイズに限られてしまいます。チキン丸ごとは無理なサイズです。それでも重さが4㎏もあります。蓋は重いほうが密閉されて良いと思われているようですが。本体と蓋のすきまの加工精度の方がむしろ重要だそうで、重いから良いというわけではないそうです。

EMMARINIの技術でアルミ無水鍋の再生に挑戦しました。

 EMMARINIの技術は、アルミ製品を沸騰水道水で黒染めして、これをゾルゲル法と呼ばれる方法で透明なセラミックコーティングで保護することです。すべて食品衛生法で定められた使用が許可された材料(ポジティブリスト品)のみでできています。黒染めは、アルミ鍋が水道水で自然に黒くなる現象で、安全性が証明されているのは当然で、原料は水道水です。セラミックスもガラスと同じシリカでできており安全性は問題ありません。このコーティングは、薄いために透明で耐熱耐熱衝撃性が優れています。さらに表面は親水性で油汚れも洗剤なしで落とすことができ、お手入れが楽になっています。弱点は薄いがゆえに、研磨剤でのお手入れを差し控えていただくことです。それでも焦げてもメラミンフォームかアルミ箔を丸めたもので擦るとコーティングを傷めることなく楽にお手入れすることができます。鉛筆硬度はフッ素樹脂のH程度に対して9Hあります。

再生ではこのようにして黒染めします。

こちらが完成品です。黒染めによる装飾と透明セラミックコーティングによるお手入れしやすさを持って生まれ変わりました。