前回の記事では、アルミフライパンを黒染めでお絵描きする方法を紹介しました。今回は、仕上げの透明セラミックコーティングで描画を保護する方法を紹介します。

下写真のようなスポンジヘッド容器(かゆみ止めの薬の容器)を用いると適量のセラミックコーティング液を塗布できます。これは受注生産になりますがブログショップEMMARINIで販売しています。

約10㎝のポリエチレン容器に入っています。内容量は20gで理想的には1㎡に塗布できます。現実的には、大きさや塗り方にもよりますが、アルミフライパン2~3個処理できます。
スポンジヘッドからコーティング液が少量ずつしみ出してきます。
コーティング液はアルカリ性のため保護メガネと保護手袋を着用してください。

ショップに在庫がない場合は受注生産いたしますのでお問合わせください。このコーティング液は、ケイ酸リチウム、ナトリウム、カリウムの混合水溶液ですべて厚生労働省が定める食品容器ポジティブリスト(使用許可化学品リスト)に記載されています。かつてはネガティブリスト(使用禁止化学品)で食品容器は規制されていましたが、これでは新しく発見された化学品(例えば一部のフッ素樹脂)が安全性もわからず使われてしまうため、今はポジティブリストに記載された化学品しか使うことができなくなりました。また、下写真のように厚生省告示370号食品容器安全性試験についても公的機関試験でクリアされています。これらの原料成分は、ガラス食器と土鍋の原料としても利用されてきたものですので安全衛生上全く心配ありません。リサイクルも容易ですし、海洋に出たとしても砂になるだけで、プラスチックやフッ素樹脂のように海中を浮遊し続けることはありません。また、基材のアルミニウムも一時はアルツハイマー病の原因との報道がありましたが、WHOにより完全に否定されています。

食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について(2025年5月31日まで)|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

このコーティングされたアルミフライパンは開放特許技術であり、EMMARINIはこの権利を所有し、有償で開放しています。このため、工業用、商用をご検討の方はお問い合わせお願いいたします。

コーティング液を塗装します。工程は、(塗るー拭き取るー乾燥する)を3回繰り返して焼き付け、そしてまた(塗るー拭き取るー乾燥する)を3回繰り返して焼き付けです。

前回の記事では写真のようにアルミフライパンを黒染めした段階で中断しました(米のとぎ汁処理はしていません)。この段階では黒染め部分とアルミ素地がむき出しになっているため、あまり丈夫ではありません。このため、本記事で透明なセラミックコーティングを処理して表面を保護します。

沸騰水道水で黒染めした後、油性インキのマスキングを除光液で取り除きました。さらに、中性洗剤とメラミンフォームで軽く洗いました。

1.コーティング液を塗布します。ここからの塗布作業には安全のため保護手袋と保護メガネをお使いください。コーティング液は弱アルカリ性です。体についた場合は直ちに水で洗い流してください

内側底面を、お買い求めいただいたスポンジヘッド容器を使ってセラミックコーティング液を塗布します。フライパン側面は曲面ですのでスポンジヘッドだけでは全体は塗れません。全体を塗れないようになっているのは故意で、塗布量が多くなりすぎないようにするためです。一般的に塗装の失敗の多くは一度の塗料の塗りすぎが原因です。底面の全体にコーティング液が光って反射する程度に濡らします。この段階で側面は濡らさないでください。決して、液量を多くしてだぼだぼにはしないでください。
次に、ティッシュペーパでコーティング液を側面に伸ばしながらふき取ります。ふき取りながら、塗れていなかった内側側面もここで完全に濡れるようにしてください。側面の塗り残しがないようにし、液面の反射が消えるまでふき取ってください。ふき取っても、完全に液をふき取ることはできないので濡れ色になります。この濡れ色になる厚さがちょうどよい厚さになります。液が流れたり、液滴になっていたら乾いてしまう前に直ちにふき取ってください。

(このセラミックコーティングは薄いからこそ機能を発揮します。一度に厚くしてしまうと亀裂が入って白くなってしまいます。厚くしたい気持ちはみなさんお持ちになられますが、ここはこらえてコーティング液をふき取ってください。)

並行して外側も塗布します。内外交互に塗布すると効率的です。

2.このコーティング液塗布作業を三回繰り返します。

ふき取り後、表面に残ったコーティング液を濡れの光沢が消えるまで自然乾燥させます。1~2分で乾きますが、風をあててもかまいません。乾燥後、塗布に戻ります。3回「塗布ー拭き取りー乾燥」を繰り返します。「薄く塗って乾かして重ねる。」これがセラミックコーティングの塗装の極意です。どんな塗装でも同じで、一度に厚く塗ろうとするとひび割れや剥離、塗りムラが発生して失敗してしまいます。三回も重ねるのは時間がかかりそうですが、塗布も乾燥も早くできるので数分で完了します。

2.コンロでセラミックコーティングを焼き付けます。

セラミックコーティングは250℃以上で焼き付ける必要があります。この加熱はガスコンロでできます。

セラミックコーティング液塗布が完了したフライパンをガスコンロの五徳に載せます。
火加減は炎がフライパンからはみ出さない程度の中火以下に設定します。Siセンサー付きガスコンロでは、ちょうど250℃に自動調整されます。センサーがない場合は弱火で加熱します。アルミは熱伝導が良いので温度はほぼ均一になります。加熱時間は10分です。加熱後は自然冷却してください、
焼き付けが完了しました。焼きつけ前後で見た目はほとんど変わりませんが、しっかり焼き付いています。熱いので直接触らないよう気を付けてください。手で触れるほど覚めたら水洗いして冷やしてください。
外側の様子です。直接炎が当たったところは白くなりがちです。研磨剤入り不織布で軽くやさしく水洗いしてこすると取り除くことができます。

4. より完璧にするためにもう一度コーティングします。

もう一回コーティングするという作業は面倒に思われるかもしれませんが、一般的な塗装やワックスがけなども完全に硬化させてから再び重ねると艶や耐久性があがることが知られています。セラミックコーティングについても同じことが言えます。「塗布ー拭き取りー乾燥」を3回行い、再びガスコンロで焼き付けを行います。それほど時間はかかりませんのでぜひ実行してみてください。2度の焼き付けで完成です。お疲れさまでした。出来上がりはいかがでしょうか?もしもお気に召さない場合は、後述の再生方法でやり直すことができます。

5.コーティング液注意事項と後片付けについて

アルミフライパン用セラミックコーティング液の注意事項は以下の通りです(コーティング容器のラベルにも載されています)。

注意事項

1.ご使用にあたっては保護手袋と保護メガネをご使用ください。

2.直接目や皮膚に触れないようにしてください。万一触れた場合は水で洗い流してください。

3.使用後はスポンジヘッドを取り外してよく水洗し、コーティング液が蒸発しないように密栓してください。

4.キャップ周辺についた乾燥固化物は使用前に取り除き、コーティング液と混ざらないようにしてください。

5.異物混入した場合、コーティング液は固化、あるいは沈殿が発生します。この場合は使用しないでください。

6.内容物の廃棄は紙にしみ込ませて普通ごみとして廃棄してください。

成分:ケイ酸リチウム、ナトリウム、カリウム水溶液

内容量:20g

液性:弱アルカリ性

容器:ラテックス、HDPE

後かたずけはラテックススポンジヘッドのお手入れです。

スポンジヘッドキャップはつまんで回すと外れます。

水でコーティン液を洗い流します。コーティング液がスポンジ内で乾燥すると固ります。もしこれで詰まった場合は、コーティング液をティッシュペーパーにしみ込ませても塗布できますが、厚くなりすぎないようにご注意ください。コーティング液はアルコール、酸、アルカリや水溶性物質、アルミ粉、長期間の空気中二酸化炭素との接触で沈殿、固化が発生します。このような異物と接触しないようご注意願います。沈殿、固化が発生した場合コーティングできなくなりますのでご了承ください。この場合は紙にしみ込ませて普通ごみとして廃棄してください。

テープを巻いてジプロックに入れて冷暗所に保存すると蒸発を防ぎ、二酸化炭素との接触を防ぐことができます。

できたフライパンでベーコンエッグを作ってみましょう。最初のご使用前にフライパンはよく洗ってください。

250℃に予熱します。Siセンサー付きコンロではこの温度で自動的に弱火になります。センサーなしだと弱火1分が目安です
油をひかないでベーコンを並べます
卵を割り入れます。
ケチャップを入れて
チーズをかぶせて
蓋をして消火、1分間蒸し焼きします。
濡れたふきんで底を冷やしてそのままテーブルへ
はがしてみました。焦げ目がついてもこびりつきはありません。簡単にはがれます。
お手入れではスポンジもしくはメラミンフォームで水洗いするときれいになります。

このセラミックコーティングの特徴は250℃以上の予熱で撥水性になるため、この温度以上に予熱すると食材がこびりつきにくくなります。また、お手入れ時に水と接触すると親水性に戻るため油汚れが落ちやすくなります。弱点は予熱しないとこびりつきやすくなることですが、少量の油を引くと改善されます。

フライパンのお手入れについて

このフライパンの汚れの程度が軽い順からひどい順へのお手入れ方法です。汚れが落ちないときは次の段階に進んでください。

  • 軽い汚れ→スポンジ水洗い(中性洗剤併用可)
  • 軽くこびりついた場合→水に漬けてからメラミンフォームで水洗い(中性洗剤併用可)
  • 焦げがこびりついた場合→お湯をわかして焦げをふやかし、その後メラミンフォームで水洗い(中性洗剤併用化)
  • ひどく油汚れが固まった場合(特に外側の油焦げ)→水酸化ナトリウム入り洗剤(キッチンハイター原液など)を塗布し、ラップでくるんで蒸発を防いで1日放置してからメラミンフォームでこする(危険なため、要保護メガネ保護手袋)。

禁止事項

  • 食洗器での洗浄(アルカリ性洗剤を使わなければ大丈夫です)。
  • pH2以下の酸性食材の煮込み。レモン原液、お酢原液はpH2で腐食します。トマトはpH4で大丈夫です。レモンもお酢も10倍以上に希釈すれば大丈夫です。ジャムづくりは酸が強い場合があるのでお勧めしません。
  • 弱酸性、弱アルカリ性洗剤の加熱使用。クエン酸や重曹などの洗浄剤の加熱使用は腐食の原因になります。常温ならば使用可能です。
  • 強酸性洗剤の使用は常温でも避けてください。塩酸、硫酸、硝酸などを含む強酸洗剤は常温でも使用できません。
  • 研磨剤、金属たわし、金属へら、ナイフの使用は避けてください。コーティングは鉛筆硬度6H以上ですが、これらの材料道具はそれよりも固いために傷がついてしまいます。
  • アルミフライパン自体の問題として。350℃以上で使用したり、加熱したフライパンに水をかけて急冷するとアルミフライパン自体が変形する可能性があります。

描画とコーティングの再生について

長く使っていると描画とセラミックコーティングも傷がついたり汚れが落ちにくくなったりします。しかし、再び描画とセラミックコーティングを行うことで、フライパンを再生することができます(ただし、フライパンの変形は戻すことができません)。具体的な手順としては、まずコーティングと描画を削り落としてリセットし、その後、元の状態に戻してから黒染めとセラミックコーティングを行います。

コーティングと描画を落とすためにはワイヤーブラシかサンドペーパーを使用します。80番程度で落とします。仕上げは240~600番程度が適度です。鏡面はコーティングの乗りがよくないのでお勧めしません。
磨くと銀色のアルミ素地が露出しますので、磨き具合の判断は容易です。黒い部分と汚れを完全に落としてから、細かい番手で仕上げます。コーティング液は冷暗所で保存されていれば再使用できますが、水分の蒸発、異物が混入(水道水、アルミ粉、有機溶剤、炭酸ガスなど)してしまうと、固まったり、沈殿が生じたりしてしまいます。このような状況になった場合は、申し訳ありませんが、使用することができないため、紙に吸わせて一般ごみとして処分お願い申し上げます。

再生したフライパンです。”EMMARINI”の位置が猫の横から下に移動させました。

前記事からお付き合いありがとうございました。環境負荷の大きいフッ素樹脂が少しでも削減できればと思います。予熱が必須になりますが、高温調理などのレパートリーが広がり、さらに再生して描画や工作などの楽しみも増えます。いかがでしょうか。