サン・カタルド協会、パレルモ、シチリア

前回の投稿でセラミックスコーティングフライパンには大きく2種類あることを紹介しました。一つはフッ素樹脂とセラミック粉を混合したもので、これはほぼフッ素樹脂コーティングと同じ性質になり、水をはじいてくっつきにくい長所があるのですが、260℃以上の高温では劣化するものです。今回紹介するのは、フッ素樹脂を含まない、いわば純粋なセラミックスからなるコーティングです。これはフッ素樹脂とは逆で、水になじむためくっつきやすく、焦げ付きやすいというのが本来の性質です。しかし、250℃以上の高温に予熱しておくと、水をはじいてくっつきにくくなることを紹介したいと思います。

ここで、純粋なセラミックスコーティングは、無機物だけから出来ており、樹脂を一切含まないものとします。陶磁器、ガラス、ホウロウは含みます。セラミックス本体の性質は親水性で、水によくなじむためくっつきやすくなります。

純粋なセラミックコーティングは、ここでは見出しの通り、樹脂を含まない無機物からだけなるコーティングとさせていただきます。ホーローはガラス質であり、土鍋も陶磁器であるためこれに含ませていただきます。ほとんどのセラミックスの表面は酸素原子に覆われており、室温ではそれに水分子がくっついた -OH基になっています。つまり、この表面は水になじみやすい状態、親水性になっています。これはフッ素樹脂の水をはじく性質、撥水性とは逆の性質になります。親水性のもの同士、例えばガラス板を水で濡らして張り合わせると見事にくっついて離れなくなります。これに対して、油のような撥水性のものを塗っておくとくっつかなくなります。食物のうち、卵やお肉の赤身はタンパク質でほぼ親水性ですので、これが親水性のセラミックス表面で加熱されるとくっつくのは至極当然です。これに対して、撥水性のフッ素樹脂では、くっつきにくくなります。これより、セラミックスにくっつきにくさを期待するのは、始めから間違っているということになります。本当でしょうか?

心配ご無用、セラミックスは250℃以上では、水になじまなくなります。

しかし、セラミックス表面は250℃以上の温度になると、撥水性になるというフライパンにとって都合の良い性質が、2つの理由であります。一つは、先ほどの水になじみやすい -OH基から水分子(H2O)が蒸発してしまうためです。簡単な化学式で書くと、 -OH + HO- → -O- + H2O↑。 この温度では水がなくなってしまうのでくっつきようがありません。このようにするには、フライパンを250℃以上に予熱しておき、それから食材を入れると良いことになります。ただ、冷たい食材をいっぺんに投入すると、表面温度が下がって親水性に戻りますので、ゆっくり投入することがくっつかないためのコツになります。それが出来ないときは、温度が戻るまで、強火MAXです。

さらに都合が良いことに、300℃になるとライデンフロスト効果により空中浮遊力が最大になります。空中浮遊力が働くと、くっつきにくくなります。

もう一つの理由は、ライデンフロスト効果と呼ばれる現象です。フライパンの温度を確かめるのに、少量の水を滴下したとき、水が玉になって転げまわりジュウと音を立てて蒸発しなくなれば適温という不思議な話を聞かれたことはないでしょうか?これこそがライデンフロスト効果と呼ばれるもので、フライパンのくっつき防止に大変役立つ現象です。

 水がフライパン上で熱せられると蒸発が始まります。蒸発量は温度が高いほど大きくなります。これがある温度に達すると蒸発した水がジェット噴射のようになり、残った水を空中に浮遊させるようになります。水が空中に浮遊すると、フライパンからの熱量が減り噴射量も減るため水は着地しようとしますが、その着地瞬間に再び熱が供給されて噴射量が増えるため再び浮遊します。このぎりぎりのバランスの状態で、水玉がフライパンの上をすべり、温度が高いのに蒸発しにくくなるのがライデンフロスト効果です。

ライデンフロスト効果:150℃より300℃の方が乾燥時間が長くなる!?

上のグラフをご覧ください(横軸は℃で説明します)。横軸はフライパンの予熱温度、縦軸は同じ量の水が蒸発して消滅するまでの時間を模式的に示しています。150℃までは、予熱温度を上げるほど蒸発時間は短くなるという至極当然な結果です。しかし、150℃を超えると、300℃までは蒸発時間が長くなっていきます。これがライデンフロスト効果で、水が空中浮遊するため、蒸発に時間がかかるようになってきます。同じ量の水を乾燥するのに150℃の方が300℃よりも早いという実に面白い現象です。300℃を超えると再び蒸発時間が短くなりますが、これは輻射熱が多くなるためと推察されます。

フライパンを300℃に予熱できれば、最もくっつきにくい。これができるのは、セラミックコーティング(アルミやステンレスの金属も可能)で、フッ素樹脂コーティングでは壊れてしまいます。

ライデンフロスト効果はセラミックスだけでなく、アルミやステンレスといった金属やフッ素樹脂加工のフライパンでも同じように現れます。ただ、理想の300℃にするには、フッ素樹脂加工では壊れてしまいます。取扱説明書にも、このような高温使用はやめるようにもはっきり書かれています。セラミックコーティングフライパンの中にも、高温使用は禁止しているものもありますが、先述のフッ素樹脂混合フライパンでは当然でしょう。しかし、樹脂のない純粋なセラミックコーティングフライパンでも300℃程度の高温使用を禁止しているものがあります。せっかくなのに、不思議です。

次回は、純粋なセラミックコーティングで耐熱性が高いはずなのに高温使用や強火が禁止されているフライパンがあることを説明します。これがよくある第二の誤解ポイントです。