こんにちは。フライパンブログ、エマリーニ管理人のCheilgiroです。セラミックスの研究開発に長年たずさわってきました。市販のセラミックコーティングフライパンについての説明で、嘘ではないのですが、セラミックス本来の性質が誤解されてしまうような記載を時折見かけますので、この誤解を解くべく、不定期にブログを書いています。今回は熱の伝わりやすさ=熱伝導性についての誤解を解きたいと思います。
「セラミックスだから熱が伝わりやすい。」ではなく、「セラミックスはフッ素樹脂よりも熱が伝わりやすい。」がより正確な表現です。
フライパンにとって熱の伝わりやすさは重要です。熱が伝わりやすいと、早く温まり予熱時間が短かくて済みます。また、火加減コントロールが早く反映しますので水分飛ばしがやりやすくなり、焦げ始めても火を弱めればすぐに防ぐことができます。熱が伝わりにくいと、火を弱めてからでも焦げてしまいます。熱が伝わりやすいと温度ムラもできにくくなります。煮物を除けば、熱の伝わりが大きいに越したことはありません。だから、フライパンメーカーは熱の伝わりやすさを強調したいのですが、セラミックスは一部例外を除き一般的にはそれほど熱を伝えやすい物質ではありません。下表に、フライパンに使われる材料の熱の伝わりやすさを大雑把に示しました。
熱の伝わりやすさ(熱伝導性) | フライパンに使われる主な材料 |
大 | アルミ、銅、ダイアモンド、窒化物セラミックス(天然に存在しない特殊セラミックス) |
中 | 鉄、ステンレス、一般的なセラミックス、ガラス、ホーロー |
小 | フッ素樹脂(テフロン)、多孔質セラミックス(陶器) |
表からもわかるように、セラミックス(ダイアモンドも含めて)の熱の伝わりやすさは、大中小と別れ「セラミックスだから熱が伝わりやすい」と一概に言えるものではなく、「フッ素樹脂よりも伝わりやすい。」というのが誤解されない表現です。古典的なセラミックスである土鍋は熱が伝わりにくいことはみなさんご承知の通りです。
セラミックコーティングフライパンは熱を伝わりやすくするためアルミ合金を基板にしていますが、熱衝撃に弱くなる不都合な点があります。
セラミックコーティングフライパンは大方、アルミ合金基板上に塗装されています。アルミ合金が使われるのは、表にもあるように大きな熱伝導性を持つためで、フライパン全体の熱の伝わりやすさが向上します。また、軽量であることも大事な理由です。
しかし、この組み合わせは両者の接着面で不都合が出てきます。アルミ合金もセラミックスもそれぞれ熱膨張率(温度が変化したときの伸び縮み)が異なりますので温度変化したときに接着面でひずみが生じるのはある程度は仕方がないのですが、さらに熱の伝わりやすさに差があると、アルミのみが急に温度変化するためひずみがさらに大きくなります。こうなると、剥がれたり、ひび割れが生じることになります。フッ素樹脂よりは良いのですが、セラミックフライパンが強火や急冷禁止なのはこのためです。オーブンのようにじっくり熱するものは、フッ素樹脂混合セラミックスでない限り、たとえ300℃といった高温でも大丈夫でしょう。前回ブログでも述べましたが、セラミックスコーティングは耐熱性が良くても、耐熱衝撃性(急熱急冷)に弱いので、炒め物よりもじっくり時間をかける料理に適していると言えるでしょう。
一方、ダイヤモンドは熱をよく伝えるため非常に好都合ですが、これ単独のコーティングは簡単ではなく、セラミックスかフッ素樹脂と混ぜて使われているため、その分熱の伝わりやすさは低下してしまいますので、やはり急熱急冷は避けたほうが良いと思います。急熱急冷だけにこだわれば、コーティングのない、鉄、ステンレス、アルミ合金フライパンが適していると言えます。
エマリーニでは、アルミ合金基材に接着力の強いセラミックスを薄くコーティングして熱衝撃に耐えれるようにしています。
このようにコーティングフライパンでは、熱伝導率(熱の伝わりやすさ)と熱膨張率(温度変化による伸び縮み)が異なるアルミ合金基材とコーティングの接着面が熱衝撃に耐えるようにすることが大きな課題になっています。当ブログのエマリーニでは接着力の強いセラミックスをゾルゲル法と呼ばれる方法で薄くコーティングしています。薄くコーティングするのは、透明にして金属光沢と描画を見えるようにするためですが、コーティング内の温度差が小さくなり急熱急冷で剥がれにくくなります。しかし、薄い分だけ長期にわたる摩耗で消失してきますので、金属へらや研磨剤の使用はお避け下さい。親水性のため汚れがおちやすくなっていますので、研磨剤を使わないメラミンフォームでのお手入れが最適です。